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顔のない敵/カッパ・ノベルス/石持浅海

近ごろの本格ミステリ界に疎い私でも名前だけは知っていた。なぜ読もうかと思ったかというと、なんとなく立ち読んだ本格ミステリベスト10の上位の中でノベルスだったことということと、適度なサイズの短篇集であること、なんとなく名前は知っていたという点が大きいだろう。

本書は対人地雷をテーマにした短篇集となっている。正直本格ミステリと対人地雷に何の繋がりがあるのかよくわからず、どんな作品世界に引きずりこんでくれるのか不安とランキング上位の期待が入り交じっていたが、読んでみると、見事に溶け合っているし、対人地雷についての小難しい話題もなく、すんなりと対人地雷の絡んだ本格ミステリとして作品世界を理解することが出来た。また日本社会における正義とは異なる論理で地雷除去現場の正義が語られるところにも注目したい。そしてもちろん完成度の高い本格ミステリでテーマとの協調性も高い。これを光文社の本格推理投稿時代に書き上げているのだから驚くばかりだ。収録作品は、「地雷原突破」、「利口な地雷」、「顔のない敵」、「トラバサミ」、「銃声でなく、音楽を」、「未来へ踏み出す足」、「暗い箱の中で」。

「地雷原突破」は地雷除去NGOの友人との会話形式であり、欧州の平和社会の中で、仮想地雷地帯を作って地雷の密集を再現した中の憂鬱な死の悲劇について語られる。会話形式であるからこそ真実を見抜くことができ、また本格探偵小説のトリックや動機面の種別としてもオーソドックスで実は地雷テーマがなくとも書ける話となっているのが減点だが、それでも地雷テーマとの絡みによって作品に重みが出ているのは大きいと言える。

「利口な地雷」は殺人の謎よりも利口な地雷自身の謎の方に興味が向くという地雷テーマならではの不思議でかつ残酷な面白みがある。

「顔のない敵」は本書のタイトルになっているとおり、象徴的なタイトルであり、テーマとなる地雷がまさに主役を張っている本格ミステリ。地雷を知らぬ私であっても、その犯罪動機には納得させられるという説得力を持つ。

「トラバサミ」は日本社会に地雷が設置されるならどこに設置するという話。ここでは実際の地雷の代わりに獣用罠のトラバサミを代用している。謎と解答の出し方はテーマに沿った興味を満たしている。 「銃声ではなく、音楽を」は謎小説としては読めないが、地雷除去NGOの同一登場人物を再び出して、冒頭の「地雷原突破」と対をなしている点で本書に必要な話であると言える。

「未来へ踏み出す足」は「顔のない敵」の直接の続編であり、同種の感想を抱かせる作品。地雷ものの掉尾を飾る作品としては相応しいものとなっている。

「暗い箱の中で」は地雷物とは一切関係ない作者の処女作(光文社「本格推理」投稿採用作)。この処女作と第2作「地雷原突破」の落差は著しいが、これが地雷テーマの威力というものなのだろうか?
(2006年12月読了)
筆者の石持浅海氏は愛媛県生まれである。
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テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学

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