「新青年」昭和5年8月増刊号発表の作品。星田三平の処女作である。
この時期の作品として異例とも言えるSF先駆作である。漂流者となった主人公の星田は友人と、余所の幼子とともに生命からがら千葉の陸地までたどり着いた。 ところが近くの集落の人々は一人残らず死に絶えていたのである。 その後、生きている町や人を探して、東京を目指すが、いずれも死の町であり、野生化し猛獣と化した犬が恐怖をもたらすだけだったのだ。 果たして主人公達には絶望しかないのだろうか?
探偵小説といえない当時は国内には存在しないSF作品という点では素晴らしいの一言しかない。最後に死の町と化した原因についても説明があり、そこが探偵小説的な謎の解決となっている。ただ中編の分量で後編まで書こうとした割には、中盤のストーリーの意味合いが薄く、ほぼ前半と最終盤だけでも内容を理解するに足る展開となっていることは惜しい点と言える。
なお本作についても、他の星田作品と同様に論創社「戦前探偵小説四人集」で読むことが可能となっている。
以下は「妖鳥の涙」執筆時の感想。
せんとらる地球市建設記録/星田三平
星田三平の処女作で、「新青年」昭和5年夏季増刊に掲載の中篇
怪奇SFテーマで面白さを勝ち取っていると云える佳作だ。漂流者達は、どうにかこうにか再上陸を果たす事が出来た。しかしその眼に飛び込んできたのは異様な町並み、死体ばかりの死の街なのだ。高まる不安を背負いつつも、帝都に向かうが、魔の犬が徘徊するだけの死体の山という絶望という二文字が相応しい展開だったのだ。さて如何にこの情況を脱却しただろうか!?
なお現在、読める本がないというのが残念な所である。(昔は「新青年ミステリ倶楽部」等で読めたのだが、、)
(2002/4/10初稿[妖鳥の涙])
以下は「新青年」復刻版の読了時の感想。
「せんとらる地球市建設記録」/星田三平/40ページ
当選小説第三等。恐るべきSFでかなり面白い。
漂流から何とか陸地へ戻ってきた主人公たちは死んだ町を見ることになり、東京でも人の死体ばかりという死の町の恐怖を描いたSF。
探偵小説的要素はほとんど無く、中盤にぎこちなさもあるような気がするが、なにより怪奇SFテーマで面白さを勝ち取っていると云える。もしこれに意外性のトリックがあれば、圧倒的秀作になったとは思うので少し探偵小説にして頂きたく思った。まぁ、中途半端になる恐れの方が高いという説もあるが。
掲載誌:新青年 昭和五年夏季増刊(第十一号)=一冊壱円
(2001/7/4読了)
テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学