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石は語らず/水上呂理

「幻影城」昭和51年1月号発表の作品。40年ぶりの新作で戦後唯一の作品。

高度成長時代らしく化学産業の発展を狙う企業同士の闘争を描いたものになっている。 そのライバル企業の責任者同士が旧知の友人であったことから、その仲違いを恐れた友人が 碁で勝負を決めてはどうかと提案したのだが、果たして碁石は何かも語らなかったというのか?

戦前の水上作品の特徴を見いだすことは出来なかった。あえて言えば碁勝負を言いだした者が調停者になるつもりが、 策士策に溺れるばかりにやぶへびになってしまったところだろうか。

なお本作についても、他の水上作品と同様に論創社「戦前探偵小説四人集」で読むことが可能となっている。

テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学

犬の芸当/水上呂理

「ぷろふいる」昭和8年12月号に掲載された短編。

様々な芸をこなす犬ではあるが、ご主人の指示以外は頑として受け付けない。 その犬がチンチンの芸をしていたが、どうにも様子がおかしい。 それもそのはずだったのだ。銃声、そしてそれに伴う弾丸は犬の主人を死に至らしめていたのである。 容疑者はあっさりと特定されたが、それを覆すような事実も出てくるが、果たして真相は? といった展開。

タイトルの通り、「犬の芸」が着目点になっているのが面白い。心理物としては今ひとつ効果は弱いが、主人を失った犬の悲哀を思うと、不思議と悲しくもなってくるのである。

なお本作についても、他の水上作品と同様に論創社「戦前探偵小説四人集」で読むことが可能となっている。

テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学

蹠の衝動/水上呂理

「新青年」昭和8年3月号に掲載された短編。
処女作の「精神分析」と同様にフロイドの精神分析を駆使して変態性欲を扱った探偵小説である。 その精神分析に長けた内容はもちろん、やや唐突感はあるものの意外性のある展開も含めて、佳作だと言えよう。

医者の主人公は、足裏の土踏まずをどうにか接触させたい衝動に駆られるという異常なまでの精神衰弱者であったが、 ある時同じ衝動を求める男と出会ってしまったことからその恐るべき衝動はいよいよ高まっていくばかりだった。 更には張り子の虎の夢にうなされる女性患者も絡むに及ぶのだが、しかしながらもそのベクトルの向く先は僅かながらの相違があったのだ。 そのことが招いた恐るべき陳情と真実とは?

前作「精神分析」がストイックな草食獣の恋愛を取り上げた心理小説だとすれば、本作は衝動を抑えきれない肉食獣の恋愛を取り上げた心理小説といえる。 しかし先に挙げたように同じ肉食獣であっても、何も同じ肉を好むとは限らない。より異様な心理状態にあったのはやはり主人公だったのだが、 そこに至るロジックが小説全体を見渡すと目立たず希薄という点が、本作の注目点を地味にしてしまっている要因となっている点は惜しまれるところだろう。

なお、水上呂理の他作品同様に、論創社「戦前探偵小説四人集」で読むことが可能となっている。




以下、「妖鳥の涙」コーナーとして記述した時の感想。

蹠の衝動/水上呂理

水上呂理が「新青年」昭和8年3月号に発表した短篇。
フロイドの精神分析を駆使して変態性欲を扱った探偵小説で、佳作だと言えよう。医者の主人公は、足裏の土踏まずをどうにか接触させたい衝動に駆られる精神衰弱者であったが、ある時、異様なる刺激を求める文明病患者と呼ぶべき異常者出会ってしまったことからその恐るべき衝動はいよいよ高まっていったのである。女の変態性欲的心理なども相関連する本作は本格探偵小説としても申し分なき面白さだ。
なお現在、気軽読める本がないのが、残念な所であろう。
(2002/3/26初稿[妖鳥の涙])






以下、「新青年」復刻版を読了した時の感想。

「蹠[あしうら]の衝動」/水上呂理/20ページ

神経衰弱患者の医師と刺激を求める文明病患者。フロイトの精神分析によって確かめられた女の変態異常。そして変態性欲者と化した精神異常者の衝動。さすがの面白さだ。

掲載誌:新青年 昭和八年三月号
(2001/10/5読了)

テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学

精神分析/水上呂理

「新青年」昭和3年6月号に掲載された短編。水上呂理の処女作であると同時に代表作と目される作品でもある。

美事なるフロイトの精神分析を駆使した作品であり、それが最大の特徴となっている。物理的物証によらずとも心理面のみで謎のある本格の味を出せるということに果敢に挑戦した感が強い。

奇々怪々な怪事、どういうわけか結婚に繋がる事に対して尽く妨害工作が行われるのである。見合い写真はなぜか本人から友人のポケットに移動するという奇怪、続いては戸籍謄本に死亡を意味する気味の悪い朱線、更に更には小間使いの服毒だ。しかも原因が明らかになってきたと思われたこの事件にはまだまだ驚くべき秘密が隠されていたのだ。これぞ本作のメインテーマに繋がる無意識下の行動原理だったのだ。精神分析によって、どのような解決が見られたか、そこが本作の見物だろう。

なお、水上呂理の他作品同様に、論創社「戦前探偵小説四人集」で読むことが可能となっている。




以下、「妖鳥の涙」コーナーとして記述した時の感想。

精神分析/水上呂理

水上呂理、「新青年」昭和3年6月号掲載の短篇。
処女作であり、美事なるフロイトの精神分析を駆使した作品だ。謎のある本格の味もある。主人公の友人は奇々怪々な怪事に襲われていた。血痕を示す物が尽く妨害工作に遭うのである。見合い写真の奇妙な移動、あげくに戸籍謄本の朱線、更に更に小間使いの服毒自殺未遂だ。しかも原因が見えたと思われたこの事件にはまだまだ驚くべき秘密。それこそ精神分析に長けた男の活躍の場、大いなる凱旋だったのだ。
なお現在気軽に読める本はない。数年前ならば角川文庫「君らの狂気で死を孕ませよ」で読めただけに残念である
(2002/6/21初稿[妖鳥の涙])






以下、「新青年」復刻版を読了した時の感想。

「精神分析」/水上呂理/26ページ

フロイトの精神分析を、青柳が駆使して、翠川の結婚妨害工作と思われる三つの事件を論理的に解決していく秀作心理的探偵小説。
掲載誌:新青年 昭和三年第七号(六月号)[臨時増大号]=一冊八十銭
(2001/5/28読了)

テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学

麻痺性痴呆患者/水上呂理

「新青年」昭和9年1月号発表の作品。水上呂理の最高傑作といっても過言ではないだろう。

刑法第39条「心神喪失者ノ行為ハ之ヲ罰セス」の条文を活用した現在にも通用する犯罪工作という法律的探偵小説の逸品である。 痲痺性痴呆患者として死を意識した男が実の息子に遺産を残すため、何の罪もない養子を殺害しようと工作するのだが、その下準備として 法の網をかいくぐるために狂人の犯罪という工作を錬ったものの、実際はあべこべな結果になるという不可思議な事件。 様々な思惑が絡み、実際の真相はどこにあったのか。真相解明を目指した流れにはめくるめくばかりなのだ。

なお本作についても、他の水上作品と同様に論創社「戦前探偵小説四人集」で読むことが可能となっている。




以下は「妖鳥の涙」執筆時の感想。

痲痺性痴呆患者の犯罪工作/水上呂理

「新青年」昭和9年1月号発表短篇で、水上呂理の最高傑作と言っても過言ではない法律的心理の逸品だ。
法律的責任はどこにあるというのか? 刑法第39条「心神喪失者ノ行為ハ之ヲ罰セス」の条文を利用し、発狂状態での恐るべき犯罪計画。果たしてそれは無罪か有罪か、そもそも常人と狂人の境目はどこにあったというのだ。しかも破滅誘う錯誤が更に迷走させるばかり。そこには悲劇転がり裏に蔓延る奸計が待っていたのだ。
なお現在、残念ながら気軽に読める本がない。(古くは晶文社の「あやつり裁判」(鮎川哲也編)で読むことが出来たので、図書館か古本屋で探して見よう)
(2001/11/10初稿[妖鳥の涙])






以下は「新青年」復刻版を読んだ時の感想

「麻痺性痴呆患者の犯罪工作(検事局書記の私的調査)」/水上呂理/16ページ

刑法第三十九条「心神喪失者ノ行為ハ之ヲ罰セス」の条文を利用し、発狂状態での恐るべき犯罪計画。
何だか現在でも見た法の隙間を付く犯罪である。しかしその狂人の目論見は直接間接は不明ながら失敗に終わったのである。
さすがは水上呂理の凄さがここにもある。

掲載誌:新青年 昭和九年新年特大号
(2001/10/25読了)

テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学

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