「新青年」昭和8年3月号に掲載された短編。
処女作の「精神分析」と同様にフロイドの精神分析を駆使して変態性欲を扱った探偵小説である。 その精神分析に長けた内容はもちろん、やや唐突感はあるものの意外性のある展開も含めて、佳作だと言えよう。
医者の主人公は、足裏の土踏まずをどうにか接触させたい衝動に駆られるという異常なまでの精神衰弱者であったが、 ある時同じ衝動を求める男と出会ってしまったことからその恐るべき衝動はいよいよ高まっていくばかりだった。 更には張り子の虎の夢にうなされる女性患者も絡むに及ぶのだが、しかしながらもそのベクトルの向く先は僅かながらの相違があったのだ。 そのことが招いた恐るべき陳情と真実とは?
前作「精神分析」がストイックな草食獣の恋愛を取り上げた心理小説だとすれば、本作は衝動を抑えきれない肉食獣の恋愛を取り上げた心理小説といえる。 しかし先に挙げたように同じ肉食獣であっても、何も同じ肉を好むとは限らない。より異様な心理状態にあったのはやはり主人公だったのだが、 そこに至るロジックが小説全体を見渡すと目立たず希薄という点が、本作の注目点を地味にしてしまっている要因となっている点は惜しまれるところだろう。
なお、水上呂理の他作品同様に、論創社「戦前探偵小説四人集」で読むことが可能となっている。
以下、「妖鳥の涙」コーナーとして記述した時の感想。
蹠の衝動/水上呂理
水上呂理が「新青年」昭和8年3月号に発表した短篇。
フロイドの精神分析を駆使して変態性欲を扱った探偵小説で、佳作だと言えよう。医者の主人公は、足裏の土踏まずをどうにか接触させたい衝動に駆られる精神衰弱者であったが、ある時、異様なる刺激を求める文明病患者と呼ぶべき異常者出会ってしまったことからその恐るべき衝動はいよいよ高まっていったのである。女の変態性欲的心理なども相関連する本作は本格探偵小説としても申し分なき面白さだ。
なお現在、気軽読める本がないのが、残念な所であろう。
(2002/3/26初稿[妖鳥の涙])
以下、「新青年」復刻版を読了した時の感想。
「蹠[あしうら]の衝動」/水上呂理/20ページ
神経衰弱患者の医師と刺激を求める文明病患者。フロイトの精神分析によって確かめられた女の変態異常。そして変態性欲者と化した精神異常者の衝動。さすがの面白さだ。
掲載誌:新青年 昭和八年三月号
(2001/10/5読了)
テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学