デビュー作から、気早の惣太シリーズも全て収録し、戦時中の作品で甲賀最後の連載長編と目される「朔風」も収録するなど
甲賀の本流というよりは異色作に偏り風味ではあるがバラエティに飛んだラインナップとなっているのが
甲賀三郎探偵小説選Ⅱだ。
冒頭に収録はデビュー作でもある「真珠塔の秘密」「カナリヤの秘密」は甲賀が生み出した最初の名探偵、橋本敏の作品集となっている。
ホームズ式のフォーマットを踏襲したかのような作品で、「カナリヤの秘密」においては後々まで甲賀の代名詞ともなる理化学トリックの萌芽が見て取れよう。
気早の惣太シリーズは、全編収録。愛すべきまでに率直でわかりやすいキャラクターの気早の惣太である。泥棒でありながら全く憎むことができない。ステキなキャラである。
甲賀三郎の生み出したるユーモア物としては最高のシリーズである。惣太の活躍は笑いなしでは見てられないだろう。そして時にはユーモアからの感動もよいものだ。
「銀の煙草入れ」「都会の一隅で」「池畔の謎」はサンデー毎日、週刊朝日といった週刊誌に載ったもの。「都会の一隅で」はわかりやすい愉快な驚きを伴った爽快感があるのに比べて、「銀の煙草入れ」と「池畔の謎」は怪奇犯罪小説といった趣だが、一寸中途半端な感は否めない。
「暗黒街の紳士」「変装の女探偵」は義賊怪盗ものであり、甲賀の得意とする分野でもあるだけに面白く読める作品となっている。
「ビルマの九官鳥」は大東亜戦直前の英領ビルマを舞台にした父を探し求める作品。少年物だけに少年の活躍譚となっており、
異国の描き方もなかなか引き込まれる。登場人物達もバイアスの支配はあるにせよ魅力的であり、冒険といった壮大さを感じ取れるだろう。
「ビルマの九官鳥」と「朔風」の繋ぎがまた素晴らしい。これは配列の妙なのだが、その今振り返れば物悲しいのだろうが、当時の勇猛果敢な雰囲気が伝わってくるかのようである繋ぎである。
「朔風」は戦中掲載作品でありながら連続殺人が描かれる
探偵小説。冒頭からして洋館に見知らぬ謎の外国人女性の死体が横たわるという不可思議な入りとなっているのだから驚きだ。
途中、探偵役となる主人公もハッキリせぬほど、小さな事件や謎が各所で怒ったりしてごった煮状態ともなるが、当時の日本本土の隅々まで描かれる終わり方は実に
探偵小説的であった。本作の収録はなかなか良い試みだったと思う。
遺稿の「街にある港」は読めるだけでもめっけものというしかあるまい。
甲賀三郎の次女の深草淑子さんのエッセイ「父・
甲賀三郎の思い出」は、甲賀没後72年にして、あまりにも貴重な証言。
この収録は本当に価値があるだけに本当にありがたい。特に甲賀の最期の様子は初めて知ることが出来たので、じっくりじっくり読ませて頂いた。あるいは最期まで悲壮な現実よりも
探偵小説のことを考えていたのだろうか。
浜田知明氏の解題もさすがというしかない。知りたい情報に充ち満ちているので、いっそうこの
甲賀三郎探偵小説選Ⅱを丸ごと楽しめること間違いなしなのだ。
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