蟇屋敷の殺人/甲賀三郎/河出文庫

胴体が首が日本刀でスパッと切り離した死体が東京のど真ん中で発見されるという冒頭。
しかもその死体と思わしき熊丸猛が別に生きているというのだがら既に奇々怪々なのだ。

その熊丸の屋敷が蟇屋敷であり、多数の蟇が邸内に飼われているという異常な屋敷となっている。
主人公の探偵小説家は、かつての教え子の娘が蟇屋敷で秘書をしたこともあり、事件に深く関わろうとするが...
という展開。

東京横浜大阪と舞台は幅広く、主人公たちは危機一髪の連続。白い顔の謎、蟇屋敷の謎、熊丸猛の謎、教え子の娘の謎、 熊丸の奥さんの謎、結局、なんだったのかよくわからない不可思議な謎も割と残るのだが、それも踏まえてもなかなか読ませる甲賀三郎の探偵小説のエッセンスが贅沢につまった探偵小説といえよう。

昭和13年という探偵小説が書きづらくなりつつある時代にあって、予想の一歩上を行く探偵小説だ。


甲賀三郎探偵小説選Ⅱ/甲賀三郎/論創社

デビュー作から、気早の惣太シリーズも全て収録し、戦時中の作品で甲賀最後の連載長編と目される「朔風」も収録するなど 甲賀の本流というよりは異色作に偏り風味ではあるがバラエティに飛んだラインナップとなっているのが甲賀三郎探偵小説選Ⅱだ。

冒頭に収録はデビュー作でもある「真珠塔の秘密」「カナリヤの秘密」は甲賀が生み出した最初の名探偵、橋本敏の作品集となっている。
ホームズ式のフォーマットを踏襲したかのような作品で、「カナリヤの秘密」においては後々まで甲賀の代名詞ともなる理化学トリックの萌芽が見て取れよう。

気早の惣太シリーズは、全編収録。愛すべきまでに率直でわかりやすいキャラクターの気早の惣太である。泥棒でありながら全く憎むことができない。ステキなキャラである。
甲賀三郎の生み出したるユーモア物としては最高のシリーズである。惣太の活躍は笑いなしでは見てられないだろう。そして時にはユーモアからの感動もよいものだ。

「銀の煙草入れ」「都会の一隅で」「池畔の謎」はサンデー毎日、週刊朝日といった週刊誌に載ったもの。「都会の一隅で」はわかりやすい愉快な驚きを伴った爽快感があるのに比べて、「銀の煙草入れ」と「池畔の謎」は怪奇犯罪小説といった趣だが、一寸中途半端な感は否めない。

「暗黒街の紳士」「変装の女探偵」は義賊怪盗ものであり、甲賀の得意とする分野でもあるだけに面白く読める作品となっている。

「ビルマの九官鳥」は大東亜戦直前の英領ビルマを舞台にした父を探し求める作品。少年物だけに少年の活躍譚となっており、 異国の描き方もなかなか引き込まれる。登場人物達もバイアスの支配はあるにせよ魅力的であり、冒険といった壮大さを感じ取れるだろう。

「ビルマの九官鳥」と「朔風」の繋ぎがまた素晴らしい。これは配列の妙なのだが、その今振り返れば物悲しいのだろうが、当時の勇猛果敢な雰囲気が伝わってくるかのようである繋ぎである。

「朔風」は戦中掲載作品でありながら連続殺人が描かれる探偵小説。冒頭からして洋館に見知らぬ謎の外国人女性の死体が横たわるという不可思議な入りとなっているのだから驚きだ。
途中、探偵役となる主人公もハッキリせぬほど、小さな事件や謎が各所で怒ったりしてごった煮状態ともなるが、当時の日本本土の隅々まで描かれる終わり方は実に探偵小説的であった。本作の収録はなかなか良い試みだったと思う。

遺稿の「街にある港」は読めるだけでもめっけものというしかあるまい。

甲賀三郎の次女の深草淑子さんのエッセイ「父・甲賀三郎の思い出」は、甲賀没後72年にして、あまりにも貴重な証言。
この収録は本当に価値があるだけに本当にありがたい。特に甲賀の最期の様子は初めて知ることが出来たので、じっくりじっくり読ませて頂いた。あるいは最期まで悲壮な現実よりも探偵小説のことを考えていたのだろうか。

浜田知明氏の解題もさすがというしかない。知りたい情報に充ち満ちているので、いっそうこの甲賀三郎探偵小説選Ⅱを丸ごと楽しめること間違いなしなのだ。

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 本・雑誌

tag : 甲賀三郎 探偵小説 論創ミステリ叢書

二川家殺人事件/甲賀三郎/サイレン社

昭和11年、1936年刊行のサイレン社の「二川家殺人事件」

二川家殺人事件

読み終わりました。
収録作は
・二川家殺人事件
・予告の殺人
・月光魔曲
・暗黒街の紳士
・歪む心
・アラディンのランプ
・幸運の魔像
・将棋の神秘

注目に値するのは「歪む心」。

表面上は日記を書いて気が狂ってしまった山上の歪んだ心ということなのしょうが、写真の類似という点をわざわざ持ってきたところに何かの錯誤が隠されている様にも思えます。
そもそも単純に捉えても当時の米国、そして禁酒法が大きく話に絡んでくるところが興味深い点でもあります。

「二川家」や「月虹魔曲」のようにあからさまではありませんが、この「歪む心」。何が歪んでいるのか考えているみるのも一興と言えそうです。

緑色の犯罪/甲賀三郎

緑色の犯罪/甲賀三郎

甲賀三郎が「新青年」昭和3年12月号に発表した秀作短篇。
緑の手紙なるあの幸福の手紙の親戚筋に当たるような怪しげな手紙の流行などの他、緑色ばかりに狂的な興味を持つ緑キチガイが指し示すもの、それは現実的にはあの恐るべきトリックの前奏曲。この恐るべきまでの狡知には驚異であろう。殺人事件の連関なども興味深いこの作品には、お馴染みの裏の悪意に溢れる手塚龍太弁護士も登場し、お得意の自身の皮算用の下にこの事件の真相を暴き出すのである。
なお現在、国書刊行会「緑色の犯罪」等で読む事が可能だ。
(2002/1/27初稿[妖鳥の涙])


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ジャンル : 小説・文学

亡命者/甲賀三郎

亡命者/甲賀三郎

甲賀三郎、「文学時代」昭和6年2月号発表の恐るべき変格短篇だ。
どうしてこれほどの佳作が初出以降完全に埋もれてるのかが納得出来ない。ずっと後の久生十蘭「刺客(ハムレット)」を少し想起せしめる展開で、登場人物の真の地位立場を理解するや、本当の悲劇を経験したことになるという悲哀なのだ。自動車の故障と大雨に出会った婦人記者は、雨宿り先で出会った老紳士、その彼は命を狙われている上に、殿下と呼ばれている不思議。
なお現在、読む事が出来ないのが遺憾な限りだ。
(2002/5/11初稿[妖鳥の涙])


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