大下宇陀児探偵小説選Ⅱ/大下宇陀児/論創社
5年ほど前に出た大下宇陀児の本。評論随筆編は先の甲賀三郎探偵小説選Ⅲの解題を書くときに読み直したが、小説編はおざなりになっていた。「金口の巻煙草」にせよ、「鉄の舌」にせよ、大学時代に新青年復刻版などで読んでいるというのもある。
ただ今回再読してみて、「鉄の舌」が偏った性格ながらしっかり人物が描かれた上で読める作品だと再認識。ただ色々考えてのことというのはわかるが終わり方は最悪に近いと思ってしまったので評価は微妙になってしまう。
本作品集では「悪女」が短編としての完成度の高さでは一番だと思う。タイトルと序盤の展開からすればあまりにも悲しい物語だ。そしてへんてこなものだがSF怪奇の「宇宙線の情熱」も素晴らしい。大正末期から昭和初期を思わせる展開なのに昭和15年にこれが書けるところが素晴らしいというのもある。時代を感じさせるだけの「祖母」との並びがそう思わせるのかもしれない。
「嘘つきアパート」も「悪女」に近い味がありなかなか悪くないが不自然さが目立つのが欠点か。その前の「三時間の悪魔」とも似ているのがまた面白いところか。「欠伸する悪魔」やらやらはコメントが難しいが面白いと思えなかった。冤罪じゃないらしくて良かったって順番と呪いが違和感。
評論編は甲賀三郎との論争の「「魔人」論争」と「馬の角論争」が興味深く読める。当時の探偵小説の考え方、乱歩・甲賀・宇陀児で三羽烏と呼ばれた戦前の代表作家においての考え方の大きな相違があったことを知ることができる。他も探偵小説黎明期から戦後にかけての興味深い評論随筆ばかりなので面白いといえる。