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星籠の海/島田荘司/講談社文庫

1993年舞台の割には世紀末くらいを彷彿させてしまう携帯電話が出てきたり、唐突な原発批判だとかナンセンスな挿入文には少しの違和感。

ともあれ、同じ島に死体が多数流れてくるという導入部は素晴らしく、そこから瀬戸内海を、福山を、駆ける御手洗潔と石岡和己のコンビは 読んでいて楽しい物がある。
瀬戸内海を巡る話で、村上水軍、そして阿部正弘の再評価に繋がるところも歴史好きとしても楽しい。フィクションの星籠の謎も想像が付くのが推理小説的謎の提示であり、 その謎に辿り着くまでのロマンも良い。

なにやらどうなったことやらと気になることが多すぎて風呂敷をたたみ着れてないのが気になるが、全体としてはロマンを感じる作品に仕上がっていると思う。

リベルタスの寓話/島田荘司/講談社文庫

表題作の「リベルタスの寓話」と「クロアチア人の手」という二つの中編を収録。
どちらも記憶に新しいユーゴスラビア紛争を題材とした作品となっており、決して忘れてはならない人類のおぞましい姿を露わにする。それでも御手洗潔活躍の本格ミステリだ。

「クロアチア人の手」は日本にやってきた俳句国際選手権の優秀な二人のクロアチア人が主役。二人は日本人から見れば仲良しに見えたが、密室状態でピラニアの入った水槽に顔を突っ込み死んでいるという不可思議な事件で一人が殺害され、殺人者と思われる一方は爆発事故で死んだため、密室トリックがわからないという事件。石岡和己は欧州にいる御手洗潔に電話連絡しつつ何とか謎を解こうとするが・・・。

密室トリックとしては、よくあるパターンとも言えるが、まるでスタンド能力のような殺害方法は奇抜。ただこのような手を簡単に操作出来るというなら健常者でも欲しくなる手でも言えるが?


「リベルタスの寓話」は中世の平等都市ラグーザ共和国、現クロアチアのドゥブルニクを題材とした作品。
セルビア人、モスリム人が凄惨な殺され方をした。その死体たるや首や性器が切断はもちろん、そのうちの1人については内臓も心臓を除いてすべて取り除かれており、代わりに電球などありきたりなものが詰め込まれていたのだ。部屋中の大量のPCも破壊され尽くしていた。犯人は戦争の怨みからクロアチア人の男に違いないと見られたが、血液型が異なるという鉄壁の反証があった。NATO(米軍)からの要請に御手洗潔が挑む。絶対に間違うことが許されない容疑者拿捕という緊張感。

一見意味のない異常犯罪と思わせながらも、WHYを突き詰めて行き、回答に行き着くところはさすがといえる本格ミステリ。
オンラインゲームの闇も絡めて、戦争の資金集めに利用される一見すると平和主義の日本国民。
全体的に恐ろしく暗い話だが、あのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争に明るさなどあるわけもない。古代から全く変わってない残忍な人間が恐くなってくる。


テーマ : オススメの本の紹介
ジャンル : 本・雑誌

UFO大通り/島田荘司/講談社文庫

200ページクラスの二編の中編を収録。石岡と御手洗潔の話である。
二編は全く別の話だが、事件のある核心部分に共通点もある。

表題作の「UFO大通り」は古い体質な乱暴な思考の中年警官の語りが特徴的。シーツにぐるぐる巻きでヘルメット、天井にガムテープという異様な状況下で死体が見つかったという展開。そしてUFO大通りのタイトルの示す真夜中に住宅街で宇宙戦争を見たという一人のお婆さんの証言。キチガイ扱いされてしまったお婆さんの話を聞き及んだ御手洗潔が自ら現場に出向きこの不思議な事件を解き明かすというもの。
日常とは思えない異常な状況から、劇的な御手洗の推理によって日常の事件を取り戻していく島田荘司らしい展開が面白い。


もう一編の「傘を折る女」の方は安楽椅子探偵物。御手洗は話を聞いただけで不思議な事件を解決に導く。
大雨の中、傘を車にひかせる異様な行為に隠れた謎とは。この謎をあっさり解き明かした先にあるのは更なる不思議であり、倒叙形式で描かれる犯罪小説が間に挟まれつつ進行していく話の進め方が良い。あまりに唐突な展開だが、現実の奇としてはあり得ないとはいえないため、小説としては十分といえるだろう。

御手洗潔と石岡和己のファンならば、読んで損が一冊といえる。(逆に言えば、ファン以外が読むのは勧めがたいともいえる。)

テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学

光る鶴/光文社文庫/島田荘司

吉敷竹史シリーズの短篇集。吉敷ファンならば読んでおくべきだろう。吉敷ファンでないならばあまり意味はないかもしれないが、「十八歳の肖像」以外は普通に読めるだろう。

昭島事件という冤罪事件をモチーフにした「光る鶴」は広義の鉄道トリックという点でも面白い。昭島事件自体が飯塚の事件なので身近さも感じ、昭島事件そのものに対する興味を引かせるところも作者の面目躍如といえるのではないか。
「吉敷竹史十八歳の肖像」はまさに吉敷ファンにだけ楽しませるボーナス作品といえるもの。吉敷竹史が警察官になる決心を抱くまでのストーリー。ミステリーではない。
「電車最中」も長い吉敷ファン向けの作品。過去のシリーズで登場した脇役の現在を伝える。ミステリーとしては非常に軽く気軽に読める作品となっている。
(2006年10月読了)

テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学

奇想の源流/光文社文庫/島田荘司

島田荘司の評論集。
各種ごちゃ混ぜなので、ファン以外は今一つ取っつけないだろう。私にしても自動車論は全く辛かった。興味がない分野のマニアックな話ほど辛いものはないだろう。
だが、探偵小説評論編。特に鮎川哲也との対談は今となっては珠玉の価値のある活字だ。これだけでも相当の価値があると言っても良い。乱歩の話題も面白い。
他、御手洗を知っていれば、日本人論は楽しめるし、社会論も普通に教養として知っていれば有効な話だ。
(2004年12月読了)

テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学

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