金田一耕助、パノラマ島へ行く/芦辺拓/角川文庫

表題作と「明智小五郎、獄門島へ行く」の二つの中編を収録した作品集。安心して楽しんで読める芦辺拓版の明智小五郎と金田一耕助ものだ。

パノラマ島は言わずとしれた「パノラマ島奇談」であり、その後日談のような体となっており、パノラマ島の行く末が楽しくも、物悲しくも、あの作品について考えさせられもする。

明智ファン=金田一ファンでは決してないので、片方しか知らない人への配慮なのだろう。一応超有名な両作ともネタバレはしない工夫を取られているのも細かい。ただこれら作品は読んでいないと何が面白いのかわからないとは思うが。

当然なのかもしれないが、表題作の方が初期の乱歩ファンとしては楽しめると思われる。とはいえ、明智夫妻と小林少年ファンに特化しているなら後者の方が楽しめるだろう。

奇譚を売る店/芦辺拓/光文社文庫

本格探偵作家の芦辺氏の贈る変格探偵小説。6つの短編による短編集。

どの作品も妙味あふれる変格であり、引き込まれ驚かされることになるのだが、全てが何らかの形で最後の表題作に繋がっている恐るべき作品集だ。


芦辺氏自身を思わせる登場人物などが出てくるところも興味深い。


どの作品も古本屋に通って、思わずまた本を買ってしまうと言う展開ではじまるのだが、これまたそういう時期があったワシ的にはとても共感できる内容となっている。


『帝都脳病院入院案内』『這い寄る影』『こちらX探偵局/怪人幽鬼博士の巻』『青髯城殺人事件 映画化関係綴』『時の劇場・前後篇』『奇譚を売る店』
の6篇を収録。


特に引き込まれたのがこれまた文字通りの緑色治療所での「帝都」、子供の頃読んだ漫画、そして虚構と現実がダイレクトで最後もビックリ「こちらX」、最後の表題作といったところか。


金田一耕助VS明智小五郎ふたたび/芦辺拓/角川文庫

パスティーシュを再び書いてくれていたのか。という思い出の作品の続編。中短編集である。

明智小五郎贔屓としてみては、いまいち魅力的に描き切れていないのだが、まぁ、それも仕方がないのだろう。 描かれた時代が戦中戦後すぐとあって、新鋭若手で成長真っ盛りの金田一耕助に対して、すでに老練な明智小五郎であるのだから。

微妙に表題作と異なる「明智小五郎対金田一耕助ふたたび」は、終戦を告げる玉音放送を一般日本人同様に戦争に否が応でも巻き込まれることになったが生き残った金田一耕助と明智小五郎のシーンから始まる。
話は戦後の華族解体に伴う悲劇的な没落華族名家柳條家の兄弟姉妹を巡った事件。金田一耕助は事件発生前に別件で探偵の依頼を受けるなど表だって巻き込まれ、明智は絶命間近に電話で呼び出されるといった展開だった。
金田一、明智両者を立てつつなのだが、どうにも明智小五郎の性格描写が気にくわない。文代さんと小林少年で何とか中和しているといった有様か。
事件の解決までは本格探偵小説であり、意外な犯人と意外な事実が、しかし自然な流れで表出する。

短編の「金田一耕助meets ミスターモト」。元ネタのミスターモトを知らなかったので、金田一耕助の単なるパスティーシュとして楽しむことしか出来なかったのだが、米国から神戸に帰国する際の客船で金田一耕助が巻き込まれた事件。

中編「探偵魔都に集う―明智小五郎対金田一耕助」は米英戦直前の上海の共同租界を舞台にしたもの。上海でいわば軍の犬として活動していた明智小五郎が出てくる点は面白い。戦場で負傷し上海の病院に滞在していた金田一耕助が探偵趣味から上官と仲良くなり、上海の町へ忍びで遊びに行った際に発生した殺人事件を巡って、金田一耕助と明智小五郎が探偵として推理を出し合うが、時代の中でどのような展開を見せたか。

短編「物語を継ぐもの」は、シニカルのようでいて、物語の連続性を生かし続けるための流れとして若い女の子を用いるのは必然の流れということを示したもの? おっさんや少年が共感を得て活躍するのは難しい時代、ファンタジー性も含めて女の子が主役を張る時代になってしまったということか

短編「瞳の中の女異聞―森江春策からのオマージュ」は金田一耕助ものの未解決事件「瞳の中の女」を取り上げた佳作。森江春策という自身の探偵キャラと金田一耕助を邂逅させるところも、本短編集が単なるパスティーシュに終わらせていない。

作者の解説が非常に助かる一書である。解説がないと理解が深まらないのかといわれるとそれまでだが、作品に対する思い入れを即時に読めるのは非常に嬉しいことと言えるだろう。久々の金田一耕助VS明智小五郎には満足。ドラマは見なかったけどね。

異次元の館の殺人/芦辺拓/光文社

弁護士森江春策のライバル検事といえる菊園検事は、その森江の協力で、さる殺人事件で逮捕された先輩検事の無罪の可能性を信じ、 霹靂Xなる画期的な放射光装置に証拠品の鑑定を依頼することになった。 それと同時に、森江の誘いで、その殺人事件の関係者が集まった昭和初期の洋館に向かったのだが、ミステリの定石のように新たな殺人事件が発生してしまう。 しかもお誂え向きの不可能犯罪、密室殺人事件。

と、ここまではある意味、オーソドックスな探偵小説のはずであった。ただ一つイレギュラーと言える序章のシュレディンガーの猫の話と 前半に出てくる放射線の加速装置は特異な装置を除いてだが。

タイトルの異次元の館の殺人というのは比喩や誇張表現ではないのが、本作の怪作たる所以なのだ。 本作における森江春策や異次元の館の登場人物達の出番は各人でそれぞれ少ない。ただ一人中心の菊園検事のみが出演し続ける。 菊園検事という凡人が苦しみ抜いて推理をし続けるところも本作の味噌とも言える。 この意味するところは、帯の「パラレルワールドと化した事件現場。真相を見抜かないと元の世界へ戻れない」という煽り文句の通りなのだ。 それでももって、複数の密室殺人の解決方法が提示されるという、記載不足のミステリに対するアンチミステリを披露するような豪華さ。 でもって、名前の異なるパラレルワールドでの謎解きが決して無意味ではないという、まさに異次元の解決方法だ。SFミステリの傑作に数えられるのに相応しい。

無理に本質には関係ないところで、ケチをつければ、異次元表現を小説的にわかりやすくするための名前の改編だったはずでは? という点かと。 名前を正確に覚え続けている菊園検事の超人ぶりにも驚いた。異次元現象だから、何か作用していたということだろうか。 そうでもないと菊園検事は狂気にかられて物語が終わってしまうから宇宙意思からのボーナスという深読みが成り立つのかもしれないと考えたら、本質以外では欠点は有り得ないということかもしれない。かもしれないの無限ループだ。

とにもかくにも密室殺人のような謎解きの本格ミステリが好きで、パラレルワールドが出てくるだけにSF的な設定や超常現象が好きならば、確実にお勧めできる一書だ。 ただし念を押せば、あまりにマジメな現実主義者や脳がSF的な発想についてこれない人には決してお勧めしないので注意すること。

テーマ : オススメの本の紹介
ジャンル : 本・雑誌

三百年の謎匣/芦辺拓/角川文庫

大富豪で大企業のトップの老人が遺産相続の件で森江春策法律事務所を訪問するが、その帰路、袋小路にて銃殺されてしまうという発端。
その富豪が残した手書きの不思議な書物。それが本書の大半を占める物語集、三百年の謎匣なのだ。
次の作品で構成されている

・新ヴェニス夜話(1709)
・海賊船シー・サーペント号(1721)
・北京とパリにおけるメスメル博士とガルヴァーニ教授の療法(1788, 93)
・マウンザ人外境(1878)
・ホークスヴィルの決闘(1891)
・死は飛行船に乗って(1937)


おかしな構成の長編ミステリだな、と思いつつ読み進めていった。目次を見るとその奇抜さに驚くしかない。 それぞれが独立した18世紀~20世紀の魅惑的な時代物語でミステリであり、それぞれ完結をしている一方で、真相の一部は書かれず仕舞いである。

その未解決という点が各短編を読み終わった後にも強烈な余韻として残り、 最後の森江春策が謎を解き明かしてくれるところで、まさかの一本線というところが、大きな効果を生んでいる。

まさに見たこともない新種のミステリだ。何という博覧強記。この300年、世界中、空海陸川を舞台にした作品を、一冊の本格ミステリで一挙に体感できてしまうなんて、 もはや想像を絶している。

ただ一つ残念だったのが、現実の前にチェーンが繋がらなかったことをわざわざ明記してしたことだろうか。

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