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ダブルミステリ/芦辺拓/東京創元社

2つのタイトルを持つ作品が表と裏に配置。複数のプロットが平行して展開していく作品は数多いが、このように明確に作品タイトルをわけたものが表裏に配置され、そしてだからこそのトリック効果を生み出しているとは恐るべき作品

本格ミステリの新境地を切り開いているといっても過言ではない。

表は「月琴亭の殺人」という表題であり、お馴染みの森江春策が冒頭から登場するオーソドックスとも言える孤立した館もの。
不思議な手紙につられて森江弁護士をはじめとする人々が館に招かれ、そこに彼らから裁判等で恨みを買っている裁判官も来ているという展開。

裏は「ノンシリアル・キラー」という表題であり、表の半分ほどの分量となっている。ブログ形式で当然一人称。元恋人の死から電車内での怪死事件から不思議な事実が判明していくというサスペンス。

個人的理由もあって、袋とじの解決編ではニヤリとせずにはいられなかったことを記しておこう。


楽譜と旅する男/芦辺拓/光文社

楽譜を巡る短編集。その楽譜と旅する男の神秘的な設定、そしてそれまでの事件を踏まえた上での最後の事件での談話が楽しい。

収録作品は物悲しい「曽祖叔母オパールの物語」、天高い「ザルツブルクの自動風琴」、幻想の高みへ「城塞の亡霊」、 現実の戦慄「三重十字の旗のもとに」、白昼の夢「西太后のためのオペラ」、ラストに相応しい心地よさ「悲喜劇ならばディオラマ座」。

神秘と幻想、そして悲しさも混ざる現実、これらが作品ごとに比率を全く大きく変えつつ全てが違うテイストになりつつも、楽譜と音楽という共通テーマで成立する美しい統一に満ちた作品集といえよう


金田一耕助、パノラマ島へ行く/芦辺拓/角川文庫

表題作と「明智小五郎、獄門島へ行く」の二つの中編を収録した作品集。安心して楽しんで読める芦辺拓版の明智小五郎と金田一耕助ものだ。

パノラマ島は言わずとしれた「パノラマ島奇談」であり、その後日談のような体となっており、パノラマ島の行く末が楽しくも、物悲しくも、あの作品について考えさせられもする。

明智ファン=金田一ファンでは決してないので、片方しか知らない人への配慮なのだろう。一応超有名な両作ともネタバレはしない工夫を取られているのも細かい。ただこれら作品は読んでいないと何が面白いのかわからないとは思うが。

当然なのかもしれないが、表題作の方が初期の乱歩ファンとしては楽しめると思われる。とはいえ、明智夫妻と小林少年ファンに特化しているなら後者の方が楽しめるだろう。

奇譚を売る店/芦辺拓/光文社文庫

本格探偵作家の芦辺氏の贈る変格探偵小説。6つの短編による短編集。

どの作品も妙味あふれる変格であり、引き込まれ驚かされることになるのだが、全てが何らかの形で最後の表題作に繋がっている恐るべき作品集だ。


芦辺氏自身を思わせる登場人物などが出てくるところも興味深い。


どの作品も古本屋に通って、思わずまた本を買ってしまうと言う展開ではじまるのだが、これまたそういう時期があったワシ的にはとても共感できる内容となっている。


『帝都脳病院入院案内』『這い寄る影』『こちらX探偵局/怪人幽鬼博士の巻』『青髯城殺人事件 映画化関係綴』『時の劇場・前後篇』『奇譚を売る店』
の6篇を収録。


特に引き込まれたのがこれまた文字通りの緑色治療所での「帝都」、子供の頃読んだ漫画、そして虚構と現実がダイレクトで最後もビックリ「こちらX」、最後の表題作といったところか。


金田一耕助VS明智小五郎ふたたび/芦辺拓/角川文庫

パスティーシュを再び書いてくれていたのか。という思い出の作品の続編。中短編集である。

明智小五郎贔屓としてみては、いまいち魅力的に描き切れていないのだが、まぁ、それも仕方がないのだろう。 描かれた時代が戦中戦後すぐとあって、新鋭若手で成長真っ盛りの金田一耕助に対して、すでに老練な明智小五郎であるのだから。

微妙に表題作と異なる「明智小五郎対金田一耕助ふたたび」は、終戦を告げる玉音放送を一般日本人同様に戦争に否が応でも巻き込まれることになったが生き残った金田一耕助と明智小五郎のシーンから始まる。
話は戦後の華族解体に伴う悲劇的な没落華族名家柳條家の兄弟姉妹を巡った事件。金田一耕助は事件発生前に別件で探偵の依頼を受けるなど表だって巻き込まれ、明智は絶命間近に電話で呼び出されるといった展開だった。
金田一、明智両者を立てつつなのだが、どうにも明智小五郎の性格描写が気にくわない。文代さんと小林少年で何とか中和しているといった有様か。
事件の解決までは本格探偵小説であり、意外な犯人と意外な事実が、しかし自然な流れで表出する。

短編の「金田一耕助meets ミスターモト」。元ネタのミスターモトを知らなかったので、金田一耕助の単なるパスティーシュとして楽しむことしか出来なかったのだが、米国から神戸に帰国する際の客船で金田一耕助が巻き込まれた事件。

中編「探偵魔都に集う―明智小五郎対金田一耕助」は米英戦直前の上海の共同租界を舞台にしたもの。上海でいわば軍の犬として活動していた明智小五郎が出てくる点は面白い。戦場で負傷し上海の病院に滞在していた金田一耕助が探偵趣味から上官と仲良くなり、上海の町へ忍びで遊びに行った際に発生した殺人事件を巡って、金田一耕助と明智小五郎が探偵として推理を出し合うが、時代の中でどのような展開を見せたか。

短編「物語を継ぐもの」は、シニカルのようでいて、物語の連続性を生かし続けるための流れとして若い女の子を用いるのは必然の流れということを示したもの? おっさんや少年が共感を得て活躍するのは難しい時代、ファンタジー性も含めて女の子が主役を張る時代になってしまったということか

短編「瞳の中の女異聞―森江春策からのオマージュ」は金田一耕助ものの未解決事件「瞳の中の女」を取り上げた佳作。森江春策という自身の探偵キャラと金田一耕助を邂逅させるところも、本短編集が単なるパスティーシュに終わらせていない。

作者の解説が非常に助かる一書である。解説がないと理解が深まらないのかといわれるとそれまでだが、作品に対する思い入れを即時に読めるのは非常に嬉しいことと言えるだろう。久々の金田一耕助VS明智小五郎には満足。ドラマは見なかったけどね。

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