Dの殺人事件、まことに恐ろしきは/歌野晶午/角川書店

江戸川乱歩の小説を現在風にオマージュした歌野晶午の短編集ということなのだろう。
どうにも味付けがおかしな方向へ行ってる点も気になる作品があるが、いくつかは上手くいっている。

「椅子? 人間!」は乱歩「人間椅子」に対する歌野の回答。人間椅子の活用という意味ではオマージュ度は高いが、「人間椅子」に対してはオマージュ度はとても低いと言える。恨みつらみの結果、女流作家に仕掛けたおそるべき罠。
これは結末は見せる必要はなかったのではないか。

「スマホと旅する男」は乱歩「押絵と旅する男」に対するオマージュ度は最低レベルと言ってもいい。何もわかっていないということはないだろうから、わざとなのだろうが、どうにも不快なのは、私の性分なのかもしれないが。スマホに人工知能を植え付け、それと旅している男と思いきや、それすらも達成できていない。
なぜ次元が異ならせたのか理解に苦しむ設定であった。異次元的な効果だけ借りようとしても全く詮無いことでナンセンスだ。 そもそも本作品集でもっとも最悪なのが、この手のIT技術系の作品としてしまうのは、興ざめというしかない。
「蟲」モチーフ作品ならば、良作と思えただけに残念なところか。

「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」は「D坂の殺人事件」に対するオマージュが良い感じに溶け込んでいる作品。
少年を相棒にして、その少年が事件の軸となるところが効果的となっているのだが、下手な推理は身を破滅させるということだ。

「「お勢登場」を読んだ男」はオマージュ度がもっとも高い作品とも言え、下手な小細工も存在せず、乱歩ファンとしてはもっとも楽しめた作品といえる。
そのまま現在の「お勢登場」すぎてニヤリとしてしまうが、発見の段がなかったのは痛恨の誤りだろう。あれがないと「お勢登場」とは言えない。

「赤い部屋はいかにリフォームされたか?」は舞台で「赤い部屋」を演じて、演じて、よもやの展開になる作品。
読ませる作品ではあるが、まるでコントのような作品になっている。もっともあれがないと締まらないのも確か。

「陰獣幻戯」は「陰獣」+「化人幻戯」なのだろうが、設定自体の安っぽさはあるものの、印象づける伏線ゆえに仕方ないのか。 それゆえに寒川と大江春泥どちらも存在しないDMの主の正体が暴露するところから終末までは一気呵成だ。

「人でなしの恋からはじまる物語」は、まさにタイトルの通りなのだが、これも「人でなしの恋」の部分があまりにも力業で どうにもいただけない。現在のリアリティになっていない。どういうことだよ、とその人でなしの恋になってしまう闇に興味が向くではないか。
後半は灰色の中の微笑み、悪くはないが、強烈な物語を期待している中では落ち着いた終わり方。まぁ悪くはないが、ともう一度。

家守/歌野晶午/角川文庫

帯に「家に渦まく人間の思惑は奇怪な事件を作り出す」と書かれている通りの本格ミステリ短編集。

「人形師の家で」「家守」「埴生の宿」「鄙」「転居先不明」の5編を収録している。
やはり表題作の「家守」を筆頭に、表の事件、裏の事件、双方の絡み合いの収束がもたらす真実に愕然としてしまう作品群となっている。


「人形師の家」はギリシャ神話のピグマリオンによる人形愛の話から始まり、それを現実化させようとする男の話。 そして両親が殺人事件でいなくなった男の少年時代から現在の話。人形愛する男の二十面相の隠れ家のような洋館における少年時代の友人失踪事件も含めて、複数の話がリンクする話の融合が素晴らしい。まさかの着地点という真相には驚くしかないだろう。


「家守」はオーソドックスな本格ミステリからすれば、至高のアリバイ&密室殺人物と言える。妻が朝起きたら窒息死していたという事件。 家自体が完全密室だったため自殺と思われたが、旦那があからさまに怪しいという展開。オーソドックスだからこそ素晴らしい。完全犯罪物だ。 なおかつそれだけにとどまらないところが凄い。ハムスター殺害事件とのリンク、道路拡張の立ち退きを退ける真の理由という過去の事件とのリンク


「埴生の宿」は認知症老人が家族を家族と認識できないという描写で始まる。そこでそっくりさんを高額バイトで雇い、 埴生の宿にて、老人に対して本当の家族が帰ってきたかのような幻想をみせようとするが、という展開。 少ない登場人物、それぞれの視点の移り変わりは見事だろう。事件としてはもっとも単純かもしれないが、非常に深い。


「鄙」はど田舎に訪れた官能小説家の兄と雑用係の弟の話。そこには二つの名字しか存在せず、運命共同体の村落だった。 例外的に医者のみが外部の人間と言った体だ。そこに東京からやってきた兄弟と10年ぶりの里帰りした村出身の男だった。 殺人事件そのものは単純だが、背景を含めた欺瞞が面白い作品だ。


「転居先不明」はもっともコメディチックな作品だが、笑って良いものやらなかなか難しい。 妻は視線を感じてストーカーではないかと夫に訴えかけるという流れから、格安物件は訳あり物件であり、実は殺人事件の舞台だったという 展開にまで発展するが。。。作中語られる殺人事件の二転三転の凄惨さに比べると、実際は平和なのだが、果たして本当にそうか?
プロバビリティの犯罪という言葉が出てくるところは興味を引く。


葉桜の季節に君を想うということ/歌野晶午/文春文庫

凄いな。これ。読後に感じた素直な感想だ。
2004年の本格ミステリおよびこのミス一位ということだが、今まで読んでなかった。良く見知った歌野晶午だったが、大学時代に、同時代の新本格デビュー作家の多くを読んだくせに、歌野作品は読まなかったせいもあるのだろう、つい今まで読んでなかったのが惜しまれるくらい。

帯には「あまり詳しくはストーリー紹介できない作品です。とにかく読んで騙されて下さい。以下略」
とあるのはまさに過言でも誇大広告でもなかった惹起文だった。

主人公の成瀬将虎は何でも屋、過去には探偵やらヤクザやらもやったこともある強者であり、女好きと来てる。ジムで後輩を通じて愛子から頼まれたのも探偵に属するもので、悪徳商法の調査に関わることだった。
またそんな折り、鉄道飛び込み自殺を図った麻宮さくらと出会ったことも運命を転がすことになるのだが。

様々なシーン展開を挟みつつ読み進めることになる。12年前の作品であることを踏まえても、そこでいくつかの違和感を感じたが、よもやあのような衝撃の事実が待っていようとは夢にも思わない。これが固定観念というやつなのだろう。
しかし衝撃の事実を受けたあとの合点の行きようも凄いというしかない。そこには隙など残っていなかったのだ。騙された時に感じた違和感を更に騙されたと実感させる二重三重の大きな欺瞞。

小説ならばの絶品で、もはや拍手を送るしかない作品となっている。

テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学

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