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悪魔黙示録「新青年」一九三八 探偵小説暗黒時代へ/光文社文庫

昭和13年、先年夏に発生した日華事変の影響で、探偵小説が戦争色が濃くなってきたターニングポイントとなった年である。
本書はその昭和13(1938)年の「新青年」収録作を取り上げた、戦前探偵小説の中級者以上向け(少なくとも入門者向けではない)の作品集となっている。

収録作品は以下の通り。小説作品については別途感想記事を記載しリンクしておいた。
本書の半分を占める「悪魔黙示録」が長編であり、他の小説作品は短編となっている。


感想を別途記載しなかった評論では、妹尾アキ夫の「オースチンを襲う」が興味深い記事となっている。 この時期でも国家間の仲は決裂必至の緊張感に満ちつつある英国のオースチンが来日したことに伴い、 その作品を愛して翻訳紹介に努めていた翻訳家の妹尾アキ夫が憧れのオースチンと会見した祭の記録記事となっており、様々な点で当時の情報に満ちているのだ。

全体として昭和13年は十分に従来の探偵小説を描けているように思える。確かに上記の「オースチンを襲う」や「唄わぬ時計」、「蝶と処方箋」には 戦時色の臭いをかぎ取ることは出来るが、まだそれほど強烈なものではないし、昭和12年以前の作品でも感じ取れるレベルのものに過ぎない。

他の作品に至っては特に以前の作品との大きな違いを感じ取ることは出来なかった。

つまりは昭和13年の内地はまだまだ平時の延長に過ぎず、従来型の探偵小説はまだまだ健在だったのだ。
しかし本書が示す通り、確かに序章ではあった。昭和14年以後の「新青年」の探偵作家の作品がどのように変貌していったのかこそ見物であるからして、 ぜひ本シリーズは昭和14年、昭和15年と続けていってもらいたいと期待したいところだ。

テーマ : オススメの本の紹介
ジャンル : 本・雑誌

戦前探偵小説四人集/論創社

本書は、羽志主水水上呂理星田三平米田三星という昭和初期に「新青年」を中心とする場で 活躍した探偵作家の競演集となっている。しかもそれぞれの作家について全集となっているのだから豪華すぎる一冊だ。

このシリーズの特徴でもあるが、解説が40ページにも及ぶ規模になっているため、これらの作家の基本的な情報や作品のそれぞれの背景や過去の評価なども知ることが出来るのも素晴らしい点といえる。

収録作品は次の通り。小説作品については各記事に感想を記しているため、リンクをしておく。

羽志主水>編

水上呂理>編

星田三平>編
米田三星>編

なお、それぞれ来歴を記しておくと。
羽志主水は明治17年長野県長野市生まれ。本名は松橋紋三。東京日本橋(現在の港区)で医者をやっていた。
水上呂理は明治29年福島県生まれ。本名は石川陸一郎。
星田三平は大正2年愛媛県松山市生まれ。本名は飯尾傳。
米田三星は明治38年奈良県生まれ。本名は米田庄三郎。奈良県下市町で医者をやっていたそうだ。

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tag : 米田三星水上呂理星田三平羽志主水

地獄に結ぶ恋/渡辺文子

地獄に結ぶ恋/渡辺文子

渡辺文子、「新青年」昭和7年9月号発表の短篇。
猟奇事件として名高い大磯の心中事件天国に結ぶ恋を前提にした意外な見かけ心中事件の真実。それは意外性が二度もより起こす。地獄に結ばれる恋は悪意ある罠。復讐の念に固まった罠だったというのであろうか。大磯事件という前例から世間も警察も心中を疑わなかったが、ここに知るものが二人。この意味こそ恐るべき物だったのである。
なお現在、光文社文庫「新青年傑作選」等で読む事が可能である。
(2002/3/16初出[妖鳥の涙])


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燻製シラノ/守友恒v

燻製シラノ/守友恒

守友恒、「新青年」昭和15年5月号発表の本格短篇。
名探偵・黄木陽平の推理が冴え渡る本格物。その探偵能力は意外な真実を見抜いたのである。色彩による赤い蝙蝠の謎は如何に展開したというのだろうか? そのテストの真の意味は!? ある医院で起こった院長の妹の目が焼かれるという奇怪な事件。その事件に伏在していた企みとは一体なんだったか!? 
この時代の本格物として興味深い本作は、なお現在、光文社文庫「新青年傑作選」等で読む事が可能である。
(2003/9/25初稿[妖鳥の涙])


テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学

遺書/持田敏

遺書/持田敏

持田敏、「新青年」大正15年5月号発表の短篇探偵小説。
錯誤は現代人なら誰でも気が付く物だろうが、単純にそれで終わら無い所が面白い所だ。送られてきた遺書に書かれていた内容は検事にとっては最屈辱に値する内容で、法廷で無罪人を断罪してしまったという。というのも、その遺書の作者たる肺病病みの男が真犯人であるというのだ。しかも決定的な証言をした男が。この事件、不合理な所を美事に克服してしまうトリックで面白かろうだ。
なお現在、光文社文庫「新青年傑作選」等で読む事が可能である。
(2002/6/24初稿[妖鳥の涙])


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