唄わぬ時計/大阪圭吉
時代が戦時体制に移りつつあるということを示唆させる作品テーマとなっているのだけが興味深い点だろうか。
どうあっても適切な時刻に唄い出さぬ目覚まし時計を欲しがる友人に渡すと、意外な謎の回答が降って湧いたという展開となっている。 その謎というのが殺人事件であり、死体腐乱するまで隠していたというのだから、現在でもニュースで見られる事例とも言えるが、 その事件の真相に繋がるというのだから驚きだろう。 しかしながら、唄わぬ時計そのものに謎を解く鍵があるわけではないところが本作の致命的な欠陥に思える。単なる話の糸口に過ぎないのだ。
やはり大阪圭吉作品としては物足りなさが目立ってしまう。昭和13年という時代の空気が大阪圭吉作品から鋭いまでのゲーム性を削ってしまったということだけではなく、 後の味でもあるユーモア味もないため、どうにも中途半端な作品となってしまっている感があるのだ。
なお現在、ミステリー文学資料館編の光文社文庫『悪魔黙示録「新青年」一九三八』などで読むことが可能となっている。
テーマ : ネタバレ無し探偵小説
ジャンル : 小説・文学