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はじめに

このブログでは、戦前の探偵小説、戦後の本格推理小説、平成の新本格ミステリ、欧米黄金時代(戦前)の本格ミステリを中心した、各種小説作品についての感想を記していきます。

基本的には左側のバーにある「カテゴリ」から作家名を選択すれば、その作家の作品の感想記事を読むことが出来る構成にしています。

なお戦前探偵小説作家の中でも、江戸川乱歩と甲賀三郎作品については、別途専用のホームページを作成しており、そちらに小説の感想も記していますので、そちらにもお立ち寄りいただければと思います。

江戸川乱歩:乱歩の世界 | 甲賀三郎:甲賀三郎の世界


また歴史物の書物についての感想等は以下の専用ページに記しています。

古代史の夢 | 中世史関連 | 近現代書の所見



旧読書記録は「乱歩の世界」内の1コンテンツとして設けていましたが、既に殆どの記事は、このブログまたは上記のいずれかに記載を転記済となっています。

夢みる葦笛/上田早夕里/光文社文庫

SFと怪奇の短編集。一作読むたびに作者上田早夕里の天才ぶりを賞賛したくなるほどであった。

「夢みる葦笛」はSF系の怪奇幻想もので、町に突然現れるようになった不気味なイソギンチャクのような音楽を奏でる生命体の話。人の進化の果てなのか、否か。
「眼神」は怪談に近い怪奇幻想もので、憑き物を宿し託宣をする役割を担うことになった兄のような従弟の話。想像の域とは言え、手紙が救いであった
「完全なる脳髄」はSFで、「華竜の宮」でお馴染みの人工知性体と思いきや、必ずしもそうではない知性体が完全なる脳髄を目指すという、それでもやはり人工知能が夢みる話のように思えた。
駆け足になるが、「氷波」に出てくる人工知性体はひと味違う土星で活躍するもので、前提的に異形であり、「滑車の地」では「華竜の宮」の世界のように海面が上がった世界で、更にディストピアと言える世界なのだが、そこでは異形の物が希望となる。「楽園」の示すAIは現在のAIの延長に近いが恐るべき未来を示唆していた。
歴史好きにとって恐るべきだったのが「上海フランス租界祁斉路三二〇号」。とにかくどの作品も素晴らしい。

月の扉/石持浅海/光文社文庫

那覇空港でのハイジャック計画。この物語の主人公はそのハイジャック犯3人である。 ハイジャック犯たちの目的は、警察に拘留された師匠なる人物を空港へ連れてくることにあった。
ハイジャック犯たちは乳児を人質に取るなど生命奪取の覚悟を決め、警察と交渉することになるが、そんな最中、乳児の母親がトイレで死体となって発見されるという不可解な事態が発生。

乗客の中の座間味島のTシャツを着た男は、ハイジャック犯たちから事件の真相を解くように依頼されるが…。

果たして、事件の真相とハイジャック犯の目的は? 

空港における日常からの不可解すぎる情況と動機と相まって、謎ばかりの展開が緊張感を呼ぶ。ハイジャック犯を主役に占めているように犯人達も極悪人にはとても見えないだけに不気味な感覚が襲い続ける。サスペンスが秀逸と言ってよいだろう。
タイトルが実にストレートなのも素晴らしい。

密室殺人ゲーム・マニアックス/歌野晶午/講談社文庫


前2作の続編であり、それらを読んでおかないと楽しみが大幅に減ってしまうので注意が必要だ。
よって単品として読むと事件の内容自体はかなり微妙なものになるのだが、続編として読むとたまらなく面白い。そうきたかとばかりの仕掛けがたまらないのだ。
果たして今回もお馴染みの5人組の密室殺人ゲームはどのようなものになり、どのような結末になってしまうのか。

大下宇陀児探偵小説選Ⅱ/大下宇陀児/論創社

#大下宇陀児探偵小説選Ⅱ ( #論創社 )をようやくちゃんと読み終わった。ネタバレなしの感想を少々。 大学時代に #新青年復刻版 で初出の連載として読んで以来の 人が生き生きしてる #鉄の舌 などの作品群。悲劇的なシニカルな味がたまらない #悪女 と SFと怪奇が絶妙なこの恋愛物を #昭和15年に出したという意味でも #宇宙線の情熱 などの短編も収録。この二つは #変格物 の #戦前の探偵小説 として傑作だと思う。 そして我が #甲賀三郎探偵小説選Ⅲ の解題でも触れた #甲賀三郎 の探偵小説論争の嚆矢ともなったと言える #魔人論争 や #馬の角論争 も評論編に収録されている。デビュー前にはお固い役所の同じ職場の同僚だったのに、水と油のような作風の違いがありながら、評論随筆などにおいて、甲賀三郎亡き後の戦後においても、甲賀三郎に触れてくれるのは #大下宇陀児 の人柄だろう。 #探偵小説 #戦前の小説 #新青年 #江戸川乱歩、甲賀三郎と並んで三羽烏 #横井司

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5年ほど前に出た大下宇陀児の本。評論随筆編は先の甲賀三郎探偵小説選Ⅲの解題を書くときに読み直したが、小説編はおざなりになっていた。「金口の巻煙草」にせよ、「鉄の舌」にせよ、大学時代に新青年復刻版などで読んでいるというのもある。

ただ今回再読してみて、「鉄の舌」が偏った性格ながらしっかり人物が描かれた上で読める作品だと再認識。ただ色々考えてのことというのはわかるが終わり方は最悪に近いと思ってしまったので評価は微妙になってしまう。

本作品集では「悪女」が短編としての完成度の高さでは一番だと思う。タイトルと序盤の展開からすればあまりにも悲しい物語だ。そしてへんてこなものだがSF怪奇の「宇宙線の情熱」も素晴らしい。大正末期から昭和初期を思わせる展開なのに昭和15年にこれが書けるところが素晴らしいというのもある。時代を感じさせるだけの「祖母」との並びがそう思わせるのかもしれない。

「嘘つきアパート」も「悪女」に近い味がありなかなか悪くないが不自然さが目立つのが欠点か。その前の「三時間の悪魔」とも似ているのがまた面白いところか。「欠伸する悪魔」やらやらはコメントが難しいが面白いと思えなかった。冤罪じゃないらしくて良かったって順番と呪いが違和感。

評論編は甲賀三郎との論争の「「魔人」論争」と「馬の角論争」が興味深く読める。当時の探偵小説の考え方、乱歩・甲賀・宇陀児で三羽烏と呼ばれた戦前の代表作家においての考え方の大きな相違があったことを知ることができる。他も探偵小説黎明期から戦後にかけての興味深い評論随筆ばかりなので面白いといえる。


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